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【比企ストーリー】鳩を極めた人、鳩を描いた人 ― レース鳩の達人・山崎清さんを訪ねて


取材日:2026年7月3日

長野県上田市の「なるに屋」さまを訪問した後、菊池日出夫さんと一緒に、ある方のお宅を訪ねました。
その方のお名前は、山崎清さん。
レース鳩の世界では、その名を知らない人はいないほどの存在だそうです。
正直に言えば、私も最初は「レース鳩って何だろう?」という状態でした。
しかし、この訪問は想像をはるかに超える驚きと発見に満ちた時間となりました。

レース鳩とは?

鳩には優れた飛翔能力と帰巣本能があります。
遠く1,000km以上離れた場所からでも、自分の巣へ戻ってくることができると言われています。
かつては伝書鳩として人々の通信を担いましたが、現在ではその能力を競う「レース鳩」という競技が行われています。
遠隔地から放たれた鳩が、どれだけ速く自分の鳩舎へ帰ってくるかを競う世界です。
そのため、飛翔能力や持久力に優れた血統が代々受け継がれ、多くの愛好家たちが独自の系統を育てています。

「松風系」の鳩

菊池日出夫さんと鳩

実は菊池日出夫さんも、子どもの頃から大の鳩好きでした。
高校卒業まで自らレース鳩を飼育し、上京するまで熱心に鳩と向き合っていたそうです。
その後、鳩を飼うことはなくなりましたが、その想いは創作活動へと受け継がれていきます。

デビュー作『やまばと』。

擬人化した鳩を主人公にした『ピー助の冒険』。

そして、レース鳩専門誌『愛鳩の友』の表紙絵などなど。

菊池さんの作品を振り返ると、鳩への深い愛情が一貫して流れていることがよく分かります。

そんな菊池さんは小川町でも鳩を飼い続け、現在でも1羽の鳩を飼っています。

菊池さんのデビュー作「やまばと」

日本の伝統を受け継ぐ「松風系」

今回訪問した山崎さんは、「松風系」と呼ばれる日本の伝統的なレース鳩の血統を守り育てている第一人者です。
今回の訪問は、『愛鳩の友』の社長さんが橋渡しをしてくださり実現しました。
菊池さんにとっても初めての訪問だったそうです。

数多くの鳩たち

300羽を超える鳩たち

鳩舎を見せていただいて、思わず息をのみました。
二階建ての大きな鳩舎には、300羽を超える鳩たち。
しかも、そのほとんどが松風系の血統を受け継ぎ、長距離を高速で飛ぶ能力を備えていることが遺伝子検査でも確認されているそうです。
一羽一羽が長年の研究と選抜によって育まれてきた存在。
その光景は、まるで生きた文化財を見ているようでした。

2階建ての鳩舎

専門家用語が飛び交う会話

私には、山崎さんと菊池さんの会話は専門用語ばかりで、ほとんど理解できませんでした。
それでも、不思議と伝わってくるものがありました。
二人が同じ世界を共有していること。
鳩という存在への深い理解と敬意。
専門用語が飛び交うほど、お互いの経験や知識を自然に理解し合っている様子が、とても印象的でした。

鳩への愛が詰まった資料群

鳩舎の後は、ご自宅にも案内していただきました。
そこにはさらに驚くものがありました。
何十代もさかのぼる鳩の家系図。
一羽ごとに写真、名前、特徴、血統などが丁寧にまとめられた資料。
その一枚一枚から、鳩への深い愛情が伝わってきます。
特に驚いたのは、すべての資料に鳩の「目」の拡大写真が掲載されていたことでした。
山崎さんは、

「目を見れば、その鳩の強さが分かる。」

とおっしゃいます。
最初は半信半疑でした。
しかし、鳩業界では目の情報が重要だからこそ、どの資料にも目の写真が掲載されているのでしょう。
長年積み重ねた経験によって培われた達人の感覚。
そこには、数字だけでは測れない世界があるのだと感じました。

「目」の写真が大きく掲載された資料

「鳩に始まり、鳩に終わる人生」

山崎さんは現在79歳。
かつては塗装会社をはじめ5つの会社を経営し、100名近い社員を抱える経営者でもありました。
その始まりもまた、鳩だったそうです。
16歳の頃、鳩が縁となって塗装会社の社長と出会い、その会社で1年半働いた後、自ら会社を設立。
事業を少しずつ発展させていきました。

笑顔で語られた言葉が印象に残っています。

「鳩に始まり、鳩に終わる人生だな。」

人生そのものが、一羽の鳩とともにあったのでしょう。

山崎氏のご自宅にて 山崎氏(左)、ご友人(中)、菊地さん(右)

絵本がつないだ時間

最後に菊池さんは、ご自身の絵本『やまばと』と『ひでのひみつ』を山崎さんへ贈られました。
山崎さんとご友人は、その場ですぐにページをめくり始めます。

「本当に俺たちの子どもの頃そのものだ。」

「ヤギもこんなふうに飼っていたよ。」

そんな言葉が次々とこぼれます。
一冊の絵本が、その人の記憶を呼び覚ます。
その光景を目の前で見ることができ、とても温かい気持ちになりました。

気が付けば、二時間以上もお邪魔していました。

「やまばと」と「ひでのひみつ」を寄贈しました

インタビュアーのひとこと

当初は予定になかった今回の訪問でしたが、想像をはるかに超える刺激的な時間となりました。
山崎さんのお宅へ向かう車の中で、菊池さんから「山崎さんはレース鳩の達人なんですよ」と伺い、「一流の人にしか見えない世界があるのでしょうね」と話していました。
実際にお会いして、その言葉の意味がよく分かりました。

「目を見れば鳩の強さが分かる。」

普通に聞けば信じがたい話です。
しかし、何十年も一つの世界を見続けてきた人には、経験によって培われた感覚があるのでしょう。
もしかすると、それは鳩だけではなく、人を見る目や会社経営にも生かされていたのかもしれません。

そして今回もう一つ強く感じたのは、菊池日出夫さんの生き物への深い愛情でした。


幼い頃に夢中になった鳩への想いは、今も変わることなく心の中に生き続けています。その優しいまなざしが、長年にわたって多くの子どもたちを魅了してきた絵本の世界を支えているのだと、改めて感じた一日でした。

鳩舎の前で

この記事を書いた人

長倉 正弥 (ながくら まさや)
長倉 正弥 (ながくら まさや)比企出し合同会社 代表社員(社長)
比企出し合同会社 代表。
エコデザイン株式会社の創業メンバーとして20年以上経営に携わる中、地元の商工会青年部・青年会議所などの活動を通して地域おこしの重要さを知る。
2021年5月に比企出し合同会社を起業。比企地域を輝かせるために全力活動中。

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