埼玉のヘソ

比企から地域の魅力と日本文化を発信


【比企ストーリー 小川町で「環境再生型農業」の講習に参加してみた!】


比企出し合同会社では、「持続可能で幸せな社会をつくること」を目指して、地域のさまざまな活動に取り組んでいます。
その実現を考えるうえで、決して欠かすことができない分野の一つが「食」です。
私たちが毎日当たり前のように口にしている食べ物は、どこで、どのように作られているのでしょうか。
そして、もし海外から食料や肥料が入ってこなくなったとき、私たちの暮らしはどうなるのでしょうか。

海外からの輸入に支えられている日本の農業

日本の食料自給率は、カロリーベースで38%程度とされています。
これは、私たちが必要とする食料の多くを海外からの輸入に頼っていることを意味します。何らかの事情で輸入が長期間途絶えれば、日本が深刻な食料不足に陥る可能性は否定できません。
また、日本の殆どの農家が用いている化学肥料についても、その原料の多くを海外に依存しています。
食料だけでなく、食料を作るための肥料まで輸入に支えられているとすれば、現在の農業は、決して盤石な仕組みとはいえないのかもしれません。
エネルギーや国際物流をめぐる不安が現実味を増している今、こうした問題は、もはや遠い国の出来事ではありません。
私たちの暮らしのすぐそばにある課題として、真剣に向き合う必要があると感じています。

20年以上、循環型社会を追い続けてきた髙橋優子さん

こうした課題に、20年以上も前から小川町で真正面から向き合い続けてきた方がいます。
NPO法人生活工房「つばさ・游」代表の、髙橋優子さんです。
髙橋さんは、小川町の有機農業を語るうえで欠かすことのできない故・金子美登さんたちとともに、地域の資源を地域の中で循環させる社会を目指し、さまざまな実践的活動に先駆けて取り組んできました。
私自身も、20年以上前から髙橋さんとお付き合いをさせていただいています。
その髙橋さんが現在取り組んでいるのが、「環境再生型農業」です。
「リジェネラティブ農業」、「循環型緑肥農法」などとも呼ばれます。
これは、単に環境への負担を減らすだけではなく、農業を通じて土壌や生態系をより豊かな状態へ再生していこうとする考え方です。
緑肥などを活用し、植物や土壌微生物の力を引き出すことで、化学肥料に過度に頼らずに土を育てていきます。
髙橋さんは昨年から、ご自身の主催する学びの団体「おがわ里山食農スクール エディベリ」にて、川町で環境再生型農業を1年間かけて学ぶ講習会「土の健康を育てる循環型緑肥農法講座」を始めました。
今年は、その第2期にあたります。

左:髙橋優子さん 右:片平一馬さん

講師は、農業研究を続けて35年の片平一馬さん

講師を務めるのは、千葉県市川市で環境再生型農業に取り組む片平一馬さんです。
片平さんは、ご自身の農園「片平ファーム」にて35年にわたって農業を研究し、さまざまな試行錯誤を重ねた末に、現在の環境再生型農業へたどり着いたそうです。
私も以前からこの講習会に興味を持っていました。
しかし、なかなか最初の一歩を踏み出すことができずにいました。
そんな私も最近になって畑を購入し、見よう見まねで農業を始めることになりました。
「せっかく畑を始めるなら、きちんと土づくりから学んでみたい」
そう思い、今回、思い切って講習に参加することにしました。

講師の片平さん

田園風景の中に突然現れた、たくさんの車

初めて参加したのは、7月19日です。
会場に到着して、まず驚いたのが車の多さでした。
のどかな田園風景の中に、突然たくさんの車が並んでいます。
「何かのイベントでも行われているのだろうか」
「この先にバーベキュー場でもあるのだろうか」
そう思ってしまうほどの光景でした。
講習会の登録者は30人以上。この日の参加者は25人ほどだったそうです。
講習は2月から始まっており、月に1回、全12回で農業の一年を学んでいきます。
今回は第6回。
私は、講習のほぼ半分が終わったところから参加することになりました。
途中参加ということもあり、まるで転校生のような気分です。
おっかなびっくり会場へ入ったのですが、皆さんが本当に温かく迎えてくださいました。
心配していたような疎外感はまったくなく、自然に講習の輪の中へ入ることができました。

田園風景の中に突然現れた、たくさんの車

まずは草刈り機の使い方から

この日の講習は、草刈り機の使い方から始まりました。
参加者が一人ずつ実際に草刈り機を持ち、基本的な構え方や動かし方、安全な扱い方を教わっていきます。
参加者の一人は、草刈り機を使いながら、
「思ったより楽しくて、やみつきになりそう」
と話していました。
確かに、草が次々と刈られていく感覚には、独特の爽快感があります。
片平さんによれば、ここまで丁寧に草刈り機の使い方を教えてくれる農業講習は、ほかではなかなかないそうです。
ただ作物の育て方だけを習うのではありません。
農業に必要となる道具の使い方や手入れまで、一つひとつ基本から学んでいく。
この実践的な姿勢が、この講習会の大きな魅力なのだと思います。

一人ひとり草刈り機の使い方を教わる

草取り鎌を研ぎ、「研ぎ澄ます」という感覚を知る

続いて行われたのは、草取り鎌の研ぎ方です。
参加者はそれぞれ、自分の草取り鎌と砥石を持参していました。
私は今回初めて知ったのですが、鎌には「草刈り鎌」と「草取り鎌」があるそうです。
草取り鎌は、草を根元から刈り取るため、草刈り鎌よりも刃が短く作られています。
片平さんが鎌を研ぐ姿は、本当に美しいものでした。
砥石の上を刃が滑るたびに、
シャッ、シャッ。
と、心地よい音が響きます。
その音まで整っているように感じられます。
錆びていた鎌も、砥石で丁寧に錆を落としていくと、鉄本来の光沢が現れます。
まるで、眠っていた刃物が再び息を吹き返したかのようです。
研ぎ終わった刃を指の腹でそっと触ってみると、いかにもよく切れそうな鋭さを感じます。
しかし、よく研がれた状態が持続するのは、わずか30分ほどなのだそうです。
そのため、一度の草取り作業に2本の鎌を用意することもあると聞きました。
「五感が研ぎ澄まされる」という表現があります。
もちろん、刃物を鋭く研ぐことから生まれた言葉なのでしょう。
私はこれまで、その言葉が示すニュアンスは分かっているつもりでした。
しかし今回、実際に鎌が研ぎ澄まされていく様子を見て、初めてその言葉の根本にある感覚に触れられたような気がしました。
昔から使われてきた言葉には、道具を使い、手を動かして暮らしてきた人々の身体感覚が込められているのだと思います。

鎌の研ぎ方を教わる

採れたての枝豆で、昼食のカレーづくり

鎌の研ぎ方を学んだあとは、昼食の準備に移りました。
この日のメニューは、採れたての枝豆を使った「枝豆カレー」です。
私はまず畑で枝豆を収穫し、さやを一つずつ枝からちぎって、ひたすらボウルへ入れていきました。
地道な作業ですが、皆で手を動かしていると不思議と楽しくなってきます。
続いては、かまどの火起こしです。
薪を組み、火をつけ、その火でカレーとご飯を炊きます。
真夏の炎天下での火起こしは、とにかく暑い。
ただでさえ暑い中、目の前では薪が勢いよく燃えています。
それでも、火が次第に大きくなり、鍋の中の水がぐつぐつと煮え始めると、何ともいえない充実感が湧いてきます。
暑いけれど、楽しい。
水分をこまめに取り、ときどき塩をなめながら、熱中症にならないよう作業を続けました。
この日炊いたお米は、片平さんが育てたお米です。
事前に、
「ものすごくおいしいですよ」
と聞いていたため、期待に胸が高鳴ります。

火起こししてカレーを作る

自分たちで作ったカレーは、たまらなくおいしい

カレーとご飯が出来上がり、参加者全員がそろって「いただきます」をしました。
ひと口食べて、本当に驚きました。
おいしい。
とにかく、たまらなくおいしいのです。
自分たちで枝豆を収穫し、薪で火を起こし、皆で作ったという体験も、おいしさを何倍にもしてくれているのかもしれません。
そして、片平さんのお米が本当に素晴らしい。
よく、おいしいご飯を表現するときに「米粒が立っている」と言います。
きっと、こういうお米のことを言うのだろうと思いました。
さらに、参加者の一人がノンアルコールビールを差し入れてくださいました。
少し高級なノンアルコールビールだったそうですが、これもまた驚くほどおいしい。
真夏の農作業のあとに、皆で食べるカレーと冷たいノンアルコールビール。
その場の空気やシチュエーションも含めて、これまで飲んだ中で一番おいしいノンアルコールビールだったかもしれません。

最高に美味しい枝豆カレーとノンアルビール

「今が一番幸せです」

実はこの日は、片平さんの73歳の誕生日でもありました。
参加者全員で「ハッピーバースデー」を歌い、お祝いをしました。
そこで片平さんが語った一言が、とても印象に残っています。

「今が一番幸せです」

最高かよ、と思いました。
長年農業を研究し、自ら農業を実践し、その知識や経験を多くの人に伝えている。
そして73歳の誕生日に、大勢の仲間に囲まれながら「今が一番幸せ」と言える。
これ以上に素晴らしいことがあるでしょうか。

参加のきっかけも、農業との関わり方もさまざま

食事のあとは、参加者一人ひとりの自己紹介が行われました。
参加している方々は、本当にさまざまな場所から来ています。
遠くは東京都内やさいたま市から、片道1時間以上かけて通っている方もいました。
もちろん、小川町に暮らしている方もいます。
農業との関わり方も、人によって異なります。
たまたま農業を始めようと思っていたところに講習会の案内が届き、
「何となく参加してみたら、想像以上にマニアックで驚いた」
という方もいました。
一方で、さまざまな農法を調べ続けた末に、環境再生型農業へたどり着いたという方もいます。
知識も経験も、参加の動機も違います。
しかし、皆さんに共通しているものがありました。
明るく、楽しそうで、そして情熱的なのです。

食事で集まった参加者の方々
食事で集まった参加者の方々2

農業の中に、明るい未来が見えた一日

今回、初めて環境再生型農業の講習に参加してみて、農業は単に野菜や米を育てるだけのものではないのだと感じました。
土を育て、植物を育て、食べ物を作る。
道具を手入れし、火を起こし、皆で食卓を囲む。
そこには、人間が生きていくために必要な技術や知恵、喜びが凝縮されています。
現在の社会には、食料自給率や肥料の輸入依存、環境問題など、多くの課題があります。
しかし、その課題に対して、自分たちの手でできることを楽しみながら実践している人たちがいる。
何だか、未来が明るく見えた一日でした。
今回はここまで。
次回の講習についても、引き続きレポートしていきたいと思います。

この記事を書いた人

長倉 正弥 (ながくら まさや)
長倉 正弥 (ながくら まさや)比企出し合同会社 代表社員(社長)
比企出し合同会社 代表。
エコデザイン株式会社の創業メンバーとして20年以上経営に携わる中、地元の商工会青年部・青年会議所などの活動を通して地域おこしの重要さを知る。
2021年5月に比企出し合同会社を起業。比企地域を輝かせるために全力活動中。

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