「史上最低最悪の産業」から始まった、世界一のブドウ栽培への挑戦 武蔵ワイナリー 福島有造氏インタビュー

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福島さん(右)と長倉(左)

武蔵ワイナリーの代表を務める福島有造さんは、自らのことを「やけくそで農業を始めた」と笑いながら話します。しかし、その言葉の裏には、常識にとらわれず、誰も成し得なかったブドウ栽培の真理を追求する、熱い情熱が隠されていました。

今回は、そんな福島さんの壮絶な半生と、独創的な栽培哲学に迫るインタビューをお届けします。
インタビュー日:2025年2月2日 インタビュアー:長倉正弥

「やけくそ」から始まった農業人生

本日はお時間をいただき、ありがとうございます。まずは、武蔵ワイナリーを始められた経緯をお聞かせください。

ありがとうございます。いやー、僕、実はやけくそで農業を始めたんですよ。それまで何をやってもうまくいかない時期が続いていて、「もうこうなったら、史上最低最悪の産業に手を出してやろう」と。その時に思いついたのが農業だったんです。今もなぜこんな大変なことをやっているんだろうって思うくらい、農業は本当に最低最悪の産業ですよ(笑)。

そんな中で、なぜワイナリーだったんでしょうか?

最低最悪の農業を活かすものとして、行き着いたのがワイナリーだったんです。ブドウという最高の原材料を作って、それを活かせるもの、それがワインでした。最初は国の補助金なんかも視野に入れていたのですが、僕がやろうとした時は流れに乗れなくて、結局このワイナリーも借金まみれで建てました。これ「借金の館」ですよ(笑)。

ワイナリーの様子

2011年、小川町で始まった挑戦

福島さんが小川町に来て、初めてブドウの木を植えられたのが2011年でしたね。なぜこの小川町を選ばれたのですか?

小川町は「有機の里」ですから。元々、桑原衛さんから有機農業の研修を一年ほど受けるつもりで来たのですが、結局半年くらいでもういいよって言われて卒業になってしまいまして。

武蔵ワイナリーの前に、武蔵鶴酒造さんで蔵人として働かれていたんですよね。お酒の製造免許を取るのは大変だったのではないですか?

そうですね。醸造の経験がないと、なかなか免許は取れません。でも、免許がないのに勝手に酒造りを始めたら「密造」になってしまう。密造をしたら、一生免許は取れませんからね。それで武蔵鶴酒造で蔵人として働かせてもらって、杜氏(酒造りのリーダー)まで経験させてもらいました。杜氏を経験したことで、税務署から講演会の依頼が来るほど信頼されて。だから、免許申請もすんなり通りましたよ。

ワイナリー内部の様子

逆境を乗り越えて

これまでで一番苦労されたことは何ですか?

いや、今もずっと苦労してますよ(笑)。

苦労話で言えば、もうだいぶ前の話ですけど雪でブドウの棚が全部潰れてしまった時がありましたね。Facebookでその写真を見た時、さすがの福島さんももうダメかと思いましたが、しばらくしたら復活していてそのときは本当に鉄人だなって思いました。

そんなこともありましたね。

今もブドウ畑は拡大し続けているのですか?

ワインが売れないとどうしようもないので、一度拡大したところで今はストップしています。面積としては4.6ヘクタールまで広がりました。本当は白ワイン品種も植えたかったんですけど植え忘れてて慌てて植えたりもしましたね。

世界一のブドウを目指す「自然栽培」

福島さんのワインは本当に美味しいと評判ですが、何か特別な栽培方法があるのでしょうか?

ありがとうございます。もしかしたら世界一おいしいブドウを作っているかもしれないと、本気で思っています。僕がやっているのは、農薬も肥料も使わない「自然栽培」です。有機農業よりもさらに進んで、植物そのものが持っている成長ホルモンを利用した栽培法を実践しています。

肥料を使わないということは、緑肥農法を実践されているということでしょうか?

はい。緑肥というのは、草を刈ってそのまま畑に戻すようなやり方のことですよね。私たちも外から肥料を持ち込むことはせず、畑の中で循環させています。外部からわざわざ有機肥料を持ち込むようなことはしません。

肥料は、植物にとって人間でいう「精力剤」のようなもので、根本的にはそんなに多く要らないものなんです。三大栄養素と言われる窒素、リン酸、カリウムは、実は植物の成長ホルモンにはほんの少ししか含まれていません。肥料は、植物を一時的に元気にさせるだけで、根本的な力は引き出さないんです。

ブドウの様子

垣根仕立て vs 棚仕立て

多くのブドウ栽培で「垣根仕立て」を採用していますが、武蔵ワイナリーでは「棚仕立て」を採用しているのには何か理由があるのでしょうか?

日本は湿度が高いので、棚仕立てが適しているという理由もありますが、一番の理由は木の力を最大限に引き出すためです。垣根仕立てだと、枝を1.5メートルほどしか伸ばしません。そして、枝の先端を切る「摘心(てきしん)」という作業を行います。でも、僕のやり方は違います。枝を10メートルでも20メートルでも、ずっと伸ばし続けるんです。

枝を伸ばし続けるとどうなるんですか?

枝を伸ばすと、根も同じように深く長く伸びていきます。根が強くなれば、ブドウ本来の生命力が強くなって外部から肥料を与える必要がなくなる。根が弱くて病気にかかりやすくなるから、農薬が必要になるんです。

棚仕立てのブドウ畑の様子

「種無し」ブドウの真実

最近のブドウは、種無しのものが主流になっていますが、ワイン用ブドウにも影響はあるのでしょうか?

垣根仕立てで摘心すると、ジベレリンという物質が出ます。これは、ブドウを弱らせる「ネガティブ成長ホルモン」です。種無しブドウは、このジベレリン処理をして作られるんですよ。だから種無しブドウというのは美味しくないんです。でも、「食べやすい」から売れるんです。人間は「食べやすい=美味しい」と勘違いしている。本来は、種のあるブドウの方がずっと美味しいんです。種無しブドウは糖度が出にくいので、ワインにするには砂糖を添加しないといけません。僕たちは、デラウェアも種有りで栽培しているので、本当に美味しいワインができます。

ワイナリー内部の様子2

会社を「つぶさない」という責任

今後のビジョンを教えてください。

会社を「つぶさない」こと。それが僕の一番の目標です。僕はもともと技術者で、社長業は苦手なんですよ。でも、やり始めたからにはつぶすわけにはいかない。次世代にバトンを渡せるように、この会社がずっと続くように頑張るだけです。

最後に、比企出しにメッセージをお願いします。

あなたはすぐ「コラボしましょう」などと安易に言いますが、本当にコラボしたいなら、まずはご自身の強みを作ってください。そして「コラボさせてください」と頭を下げられるような、魅力的な会社になってください。そうすれば、お互いに良いものが生まれるはずです。

ありがとうございます。精進します。

ワインなどの商品

インタビュアーの一言

福島さんは2011年にブドウを1本ずつ植えるところから始め、どんどんブドウ畑を拡張し、ついには2019年にワイナリーを建設しました。
インタビューの中でも語られていますが、その間に雪でブドウ畑が殆どすべて潰れてしまったり、幾多の困難を乗り越えてきました。そして、今でも困難を乗り越え続けています。
彼がブドウの力を引き出しているように、自分自身の力を引き出す秘法を獲得しているんだと私は思っています。
(インタビュアー:長倉正弥)

この記事を書いた人

長倉 正弥 (ながくら まさや)
長倉 正弥 (ながくら まさや)比企出し合同会社 代表社員(社長)
比企出し合同会社 代表。
エコデザイン株式会社の創業メンバーとして20年以上経営に携わる中、地元の商工会青年部・青年会議所などの活動を通して地域おこしの重要さを知る。
2021年5月に比企出し合同会社を起業。比企地域を輝かせるために全力活動中。

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